Fahrenheit -華氏- Ⅲ
思わず手を挙げ平手打ちの一発でもかましてやろうと思ったら、その手を誰かに掴まれた。振り返ると心音が両手で必死にあたしの手を押さえている。
気付いたら店員さんが口元に手を当て顔を青くさせていた。
「何?喧嘩?」と客たちがあたしたちを見てひそひそと噂をしていたけれどそれすらも気にならない。
「警察呼んだ方がいいんじゃない?」
「心音!離してよ!それにユーリは!?」と叫ぶと
「ダメよ!ここで騒ぎを起こしたらMrニムラの思うツボじゃない!ユーリはティムが見てるから安心して」
心音の言葉で一瞬にして頭に昇った血が一気に冷めた気がした。
「Mr.Nimura?(Mrニムラ?)」とそこだけ聞き取れたのかマックスが訝しむ。
あたしは心音の手を乱暴に払うと、
「It's none of your business. You should be grateful to Coco. If it were up to me, I'd have punched you once... no, ten times.
(あんたには関係のないことよ。心音に感謝することね。本当だったら一発…ううん十発は殴ってやりたかった)」
マックスを睨み上げると、マックスは苦笑い。
「Yeah, I guess I took it a bit too far this time. It was wrong of me to use something so important to you.
(そうだな、今回はオフザケが過ぎたみたいだ。君の大切なものを利用した俺が悪かった)」といつになく素直に謝るマックス。素直に謝られたところであたしの怒りが収まることなんてない。
ギリギリ……と、コートを掴んだ手が掌に爪が刺さるぐらい力が籠っていた。
「Don’t ever do this again. When you do things like this, it just pushes me further and further away from you.
(二度とこんなことしないで。こんなことされるとあたしの気持ちは益々あんたから離れるだけよ)」
その言葉が刺さったのか、マックスはゆっくりと手を下げると
「I'msorry.(悪かった)」ともう一度謝ってきた。
「瑠華も、行こう。ユーリの無事は分かったわけだし、ここで問題を起こして警察沙汰にでもなったらあんたの立ち位置すら危うくなるわ」
「Damn it!(チッ!)」
太ももを拳で打ってマックスを睨み
「心音、帰るわ」と踵を返した。