Fahrenheit -華氏- Ⅲ

なんてやり取りをしていると、ガラス戸の向こう側が何やら騒がしくなって、ふと振り返ると俺はぎょっとした。


「キャー!神流部長よ!ホンモノ」


「桐島主査と二人!」←いや、もっとスタッフいますけど。


「イケメン二人!絵になるわ~!」


外食事業部の事務社員だと思われる女の子たちの群れが出来ていてキャーキャー騒いでいる。


急に気恥ずかしくなって俺は早々に試食を終えて、キッチンルームを出る。


ちょっと振り返って「また後でな」と桐島を指さし。


「うん、分かったけど。招集?戦争でも始めるの?」


と桐島はのほほん。お前ほど“戦争”て言うワードが似合わない男はないな。


「まぁある意味戦争だな」俺はそれだけ言い残し、


「うん」と桐島はそれ以上深く突っ込まず頷いただけで、女子たちの黄色い声に怯むことなく、また真剣にパスタとクリップボードの間で行ったりきたりさせていた。


色んな意味ですげぇな、桐島。


流石桐島。


やっぱ桐島。


謎だぜ、桐島。


――

―――――


「あのぉ…」


試食を終えて席に戻って作業を再開させていると、斜向かいから佐々木が戸惑ったように手を挙げ


「何?」俺がそっけなく答えると


「桐島主査がどうされたんですか…?」


と…


慌ててメールを見ると、送信宛先:(物流管理本部共有)になってて、つまり瑠華の方にも届いているってワケだよな…


そろりと瑠華を見ると、瑠華はこちらを振り向くことなくもくもくと事務作業に熱中している。


はい!無視っ!


あーあ……さっき笑ってくれたのになぁ…


「あの、桐島主査が…」


「うっせぇ、ただの誤送信だ」ぷいと顔を背けて腕を組むと


「“ただの”と仰いますが、これが大事な取り引き相手であったのなら大問題です。以後、お気を付けください」


瑠華はPCモニターを見ながらキーボードを操り、淡々と注意。


グサグサっ!


相変わらず胸に突き刺さるぜ…


でも……この感じ…


イイ!



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