Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「じゃぁ誰が送ったんだよ。こっちは警察が踏み込んでくるわで、大変だったんだぞ。身に覚えのないことで危うく連行されそうになったんだぜ」
「し、知りません」と緑川が尚も否定する。その声に少しだけ涙が混じっていた。小刻みに肩も震えている。
緑川……思った以上に女優じゃんかんよ。
「どうしたんですか」背後から声が聞こえてきて、俺はわざとゆっくり振り返った。
二村の声は一見して落ち着いていそうだったが、そこに少しだけ不安が入り交じっていた。
ようやく出てきたな
二村
お前のやらかしたことで、お前が今絶対に手放したくない緑川の前でお前はどう言い訳する?どう出る?
でも俺が緑川に迫ったことをお前は絶対に庇う筈。
「どうもこうも、緑川が俺が泊ってるホテルにこれを送り付けてきたんだよ」
ファックスの用紙を見せると二村は目を開いた。
「……どうして葉……緑川さんだと…証拠はあるんですか?」二村は声を低めて目を上げた。
「状況証拠だけどな、大方瑞野さんのSNSでも見て、瑞野さんのことを良く思ってなかった緑川さんが嫌がらせで送ってきたんだろ」
「まさか。緑川さんは瑞野さんのSNSを知らない筈……」
言いかけて二村は目を開き慌てて口を噤んだ。
「へぇ、何でお前がそんなこと知ってンの?」
「二村くん、何で?何で知ってるの?」と緑川も目に涙を浮かべながら二村を見上げる。「ねぇ、あたしホントに瑞野さんのSNSなんて知らないんだよ」
「……うん、何となく…そうかなって……」
「何となくって…葉月疑われてるんだよ」緑川が二村に詰め寄った。その勢いで二村が一歩後退する。
くっくっく……俺は声を押し殺して笑った。
「何がおかしいんですか」と二村が俺を軽く睨む。
「いやぁ、ボロが出たな、っと思って」
「ボロ?」とあくまで知らないフリの緑川が「ねぇ、どういうこと?説明して」と二村に詰め寄る。
「このファックス、送ったはいいけどよっぽど急いでいたのかコンビニのファックス機器に置き忘れてったみたいだな。警察が調べた所お前の指紋がべったりくっついてたって」
嘘だけどな。これは俺の完全な作り話。
「え―――?」緑川が口元に手を当てまだ演技を続けている。
「そんな筈は!俺は”あの時”手袋をしていたから指紋が残る筈は!それに”あれ”はきっちり回収した筈……」
言いかけて二村がハッとなり目を開いた。
「ようやく認めたな、二村」
俺は口の端でにやりと笑った。