Fahrenheit -華氏- Ⅲ
俺の話を聞いた瑠華は
「それならそうとメモか何かで説明してくだいよ。もっといい方法があったでしょう?」
瑠華はさぞ面倒くさそうに顔を歪めた。まぁ面倒くさいっちゃくさいよな。
「いい方法?」
「TUBAKIウェディングさんやセントラル紡績さんに呼び出された、とか」
そ、そうね……それなら確実に二人っきりになれたわけだけど……
でも二村の手前そうそう二人で外出ってのもなぁ。
「あいつなら外回りでしばらく帰ってこないよ。さっき隣のブースのホワイトボード見たら杉並区にある出版会社に出向いてったみたいだから」
「そうですか。あなたもぬかりないですね」
何とでも言ってください。
「でさー、あいつ(裕二)が瑠華にも手伝って欲しいって」
「それは先ほど聞きました。けれどそんな簡単な問題なのでしょうか」
「まぁ俺もそう思ったけどね。いいんじゃない?あいつ(裕二)が納得すればそれで」
俺は―――どんな理由があろうと瑠華と一緒に居たい一心で必死だった。若干一名邪魔者は居るが。二人っきりではさすがに出かけられない。
「まぁ今日はそれ程急ぎの案件もありませんし。定時で上がれば百貨店など空いてるでしょうね」
瑠華はブシュロンのゴドロン刺繍のレクタンギュラーケースとカボションカットのリュウズが特徴的な腕時計に視線を落とし、
「分かりました。行きましょう」と答えてくれた。
うっそ!やったぜ!!裕二!お前のハプニングに感謝!
それから俺たちはすぐに資料室を出てフロアに戻ると
「あれ?早かったですね」と佐々木がきょとんとした視線を向けた。
「ええ、言う程難しい案件ではないので資料を読んで頭に入れたので」と瑠華はこめかみをトントンと人差し指を叩く。
日頃の行いか?実力か?
佐々木は納得したようで
「部長はすぐに柏木さんを頼りますよね」と苦笑。
うっせ!お前だってそうだろ!
それから三十分ほど経っても二村が帰ってこないことを確認して
「今日は早帰りデーだから。向こうの企業がまだまだクリスマス休暇中だしな」と言い訳をしながら言うと、佐々木は素直に
「ヤッタ」と声を上げ、瑞野さんも素直に頷いた。
というわけでそれから二村が帰ってきても俺たちは通常通りの仕事をこなし、定時になると全員がほぼ同じタイミングで席を立った。
「あれ?外資は今日早帰りデーですか?」と二村がパーテーションからひょっこり顔を出した。