真昼の星空
車に飛び乗る。

エンジンをかける。

アクセルを踏む。

夜の街に滑り出す。

ナビに表示された住所。

思わず笑う。

「こんなに近くに住んでたんだ。」

この街に住み始めて2年

探しても見つからなかったのに。

今は10分の距離。

ハンドルを握る手に力が入る。

胸がうるさい。

もう何年も会えてなかったみたいに思える。

頭に浮かぶのは

レストランの帰り道。

触れた指先。

電話越しの声。

「会いたくなってきた」

その言葉。

ただ――

抱きしめる為だけに走り出していた。

理由なんてそれで十分だった。


15分後、インターフォンが鳴る。

陽スマホを見る。

え?もう?

小走りで玄関へ行く。

鍵を開ける。

ドアが開いた瞬間――

雅人がいた。

次の瞬間。

強く抱きしめられる。

何も言う間もなく。

力強く。

「こんなに近くにいたなんて」

震えている声。

「早いよ…」

言った瞬間、涙が溢れる。

靴も脱がずに玄関で。

息も出来ないくらいの強さで。

でも苦しくない。

やっと帰ってきた場所みたいだった。

陽は気が付く。

雅人の肩が震えている。

顔を上げる。

雅人も泣いている。

声を殺して。

子供みたいに。

「…会いたかった」

やっと出た言葉。

陽も泣きながら笑う。

「私も…」

10年分の距離が消える。

言葉はいらなかった。

ただ、

やっと触れられた。

それだけだった。

しばらく抱きしめたあと。

雅人が静かに言う。

「ようちゃん。好きだよ。」

陽の指に力が入る。

背中のシャツを少し掴む。

離れないように。

陽小さく頷く。

「うん。」

それだけ。

でも十分だった。

雅人は少し笑う。

「俺ね、明日陽ちゃんと手繋ぎたい。」

陽少し顔を上げる。

「え?」

雅人少し照れながら。

「手繋いで散歩したい。」

「普通のことしたい。」

陽の涙がまた溢れそうになる。

(ああ…)

(この人やっぱり好きだ)

陽少し考えて。

「わかった。」

続けて自然に言う。

「待ち合わせして、買い物して」

「うちでご飯作って食べよ。」

雅人一瞬固まる。

「…いいの?」

陽少し笑う。

「手繋ぐんでしょ?」

雅人笑う。

涙を拭きながら。

「うん。」


ほんとに10分で帰っていった。

ドアが閉まる音。

急に静かになる部屋。

さっきまでいた温度だけ残っている。

陽は玄関に立ったまま動けなかった。

少し寂しい。
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