真昼の星空
明日も会える。

その安心が胸に残る。

さっき抱きしめられた場所をそっと触る。

まだ鼓動が早い。

小さく笑う。

「明日手繋ぐんだ。」

10年間出来なかったこと。

今やるんだ。

一方その頃。

雅人車に戻る。

ドアを閉める。

ハンドルに額をつける。

「危ない…」

小さく呟く。

これ以上いたら。

絶対進んでしまう。

やっと会えたのに。

大事だから。

急ぎたくない。

明日の約束があるから我慢する。

目を閉じる。

さっきの感触思い出す。

抱きしめた温度。

髪の匂い。

腕の中の重さ。

正直思った。

もっと抱きしめたい。

そして分かっている。

抱きしめたら――

キスしたくなる。

キスしたら――

全部ほしくなる。

だから離れた。

大事だから。

壊したくないから。

エンジンをかける。

静かに走り出す。

翌日…雨。

窓を叩く音。

陽スマホを手に取る。


まさくんおはよう。
あめだね。笑

すぐ既読。

ほんと、なんなんだよ。
手繋いで歩けないじゃないか!

陽吹き出す。

まさくん雨男?

ちがう!

即答。

陽笑いながら打つ。

どうする今日。どこかでご飯食べる?
やめとく?

雅人止まる。

(やめとくはない)

(絶対会う)

打つ。

車で迎えに行くからうちでたべよ。

なんか作るし。ワインもコーヒーもあるし。

陽少し嬉しくなる。

(ちゃんと考えてる)

返信。

そうしよっか。

続けて。

今日ずっとお店いるからまさくんの都合で来てくれていいよ。

お店19時閉店だから19時以降で!住所送ります。

雅人:

了解!

住所が送られてくる。

雅人少し固まる。

地図を見る。

思わず呟く。

「うちの事務所のすぐ近く。」

小さく笑う。

少し切ない笑い。

「こんなに近くに、いたなんて。」

帰国して2年。

見つからなかった10年。

でも今は。

歩いて来れる距離。

運命ってこういうことかもしれないと思った。

もう迎え行っても大丈夫?

送ってから時計を見る。

まだ少し早い。

でも待てなかった。

すぐ既読。


いいよ。待ってる。

その一言だけ。

でも十分だった。

雅人小さく息を吐く。

(待ってるっていいな)

5分後。

店の前に横付けされる車。

(早い…)

陽思わず笑う。

雅人車を降りる。

傘を開く。

自然に陽の方へ歩いてくる。

何も言わずに傘を差し出す。

「お疲れ様。」

陽少し照れる。

「早いよ。」

雅人笑う。

「待てなかった。」

その一言で陽の胸が温かくなる。

雅人自然にドアを開ける。

「どうぞ。」

車内は昨日抱きしめた人の匂いがする。

少しだけ緊張する沈黙。

雅人エンジンをかけながら言う。

「今日やっと手繋げると思ったのに雨だし。」

陽笑う。

「車の中なら繋げるじゃん。」

雅人一瞬止まる。

陽も気づく。

(あ、言った)

少し間。

雅人静かに右手を出す。

「…いい?」

陽手を重ねる。

10年越しの手。

温かい。

「手繋ぎデートはまた今度しよ。」

少し考えて続ける。

「桜咲く頃に。
その頃には出版イベント落ち着くから。」

雅人少し嬉しくなる。

(未来の約束だ)

「今日雨が止んだら夜中にも出来る。」

陽は笑う。

「夜中は眠いし寒いよ。」

雅人も笑う。

「そっか。」

そんな他愛ない会話をしているうちに車が止まる。

「着いた。」

陽窓の外を見る。

少し固まる。

「え?ここ?」

見覚えのある景色。

「そう。」

陽驚く。

「うそ。家からも店からも近い。」

雅人少し笑う。

でも少し切ない顔。

「俺も驚いてる。
うちの事務所とようちゃんのお店なんてもっと近いよ。」

静かに言う。

「ずっと探してたのに。」

そして。

「こんなに近くにいたのかって。」

陽胸が締め付けられる。

(そんなに探してたんだ)

言葉が出ない。

ただ思う。

もう見失わない距離。
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