真昼の星空
暗い部屋。

ベッドの上。

隣同士で天井を見ながら話している。


「ほんとはね。」

少し間。

「新幹線で会った時。」

雅人静かに聞く。

「18歳でまさくんのこと好きになった時のこと思い出してた。」

雅人少し動く。

「ん?」

「どういうこと?」

陽少し笑う。

「また恋した。」

「また好きになっちゃうと思ったから。
わざと酷いこと言ったり。
素っ気なくしちゃったり。」

少し自己嫌悪。

「子供みたい。」

雅人何も言わず聞いている。

陽続ける。

「まさくん福岡行ってる時。」

「電話で話してて。」

少し震える声。

「声聞いてきたら涙出てきちゃったから慌てて切ったの。」

「本当はもっと話していたかったのに。」

雅人小さく笑う。

「やっぱり?」

陽見る。

「涙声に聞こえた。」

「俺も電話切った後泣いたよ。」

陽驚く。

「え?」

雅人正直に言う。

「なんで今なんだろうって思って。」

「なんで10年も会えなかったんだろって。」

陽静かに聞く。

雅人続ける。

「でもさ。」

陽見る。

「10年前だったら多分こうなってない。」

「俺もガキだったし。」

陽少し笑う。

「私も頑固だった。」

雅人小さく言う。

「だから今なんだと思う。」

陽静かに頷く。

雅人続ける。

「電話切ったあとさ。」

「会いたくてどうしようもなかった。」

「遠いから仕方なかった。」

陽小さく言う。

「私も。」

静かな間。

陽は雅人の手を握る。

「もう遠く行かないで。」

雅人はにすぐ答える。

「行かない。」

10年前。

雅人に言われた。

「一緒に海外を旅しよう。」

その言葉のあと、

急激に別れる方向へ話が進んだ。

不思議なくらい、
2人とも泣かなかった。

冷静だった。

感情を置いてきたみたいに。

雅人は何度も言った。

「一緒に行こう。」

「ようちゃん。」

でも陽は首を縦に振らなかった。

小さく笑って言った。

「きっとまさくんは、1人で旅した方がいいよ。」

本当は違うのに。

本当は一緒に行きたかったのに。

陽は1人で住む部屋を見つけた。

2人で暮らした部屋を引き払った。

ダンボールの中に
思い出も詰めた。

最後の日。

玄関で向き合った。

でも特別な言葉は言わなかった。

陽が言ったのは、

ただそれだけだった。

「気をつけて行ってきてね。」

いつも雅人が出かける時に言っていた言葉。

旅行の時も。

仕事の時も。

ただいまが前提の言葉。

でもこの日は違った。

帰る約束はない。

それでも陽は同じ言葉を選んだ。

雅人少し止まった。

でも頷いた。

そして言った。

「行ってきます。」

まるで、

また帰ってくるみたいに。

新しい部屋に移った。

荷物は少なかった。

必要なものだけ。

思い出になりそうなものは、
なるべく置いてきた。

カーテンを開けてみる。

知らない景色。

知らない音。

知らない匂い。

静かすぎた。

その時、

もう雅人が居ないことを実感した。

この部屋には来ない。

ドアも開かない。

「ただいま」も聞こえない。

その瞬間、

涙があふれた。

止まらなかった。

床に座り込んだまま泣いた。

来る日も来る日も。

朝起きても。

ご飯を作っても。

編み物をしても。

テレビを見ても。

何をしていても、

雅人に会えないことを実感して、

泣いた。

夜になるともっと辛かった。

隣に誰もいない。

電気を消すと、

本当に1人になる。

だからしばらく消せなかった。

雅人に再会してからも

陽はとにかくよく泣いた。

隣に座っても。

電話で声を聞いても。

キスをしても。

抱きしめられても。

理由なんてないみたいに、

自然に涙が溢れる。

自分でも不思議だった。

でも止めようとは思わなかった。

雅人は何も言わなかった。

ただそのたびに、

静かに抱き寄せた。

ある日、陽が笑った。

「年取ったら涙腺弱くなるね。」

冗談みたいに。

雅人は少しだけ笑う。

でも本当は分かっていた。

違うことを。

これは、

年齢のせいなんかじゃない。

我慢していた時間が長すぎただけ。

だから陽は、

幸せな時ほど泣く。

雅人は思った。

(もっと早く会えたらよかったのに)

そして静かに言った。

「いっぱい泣いていいよ。」

雅人がふと呟く。

「ようちゃん。」

陽見る。

「ん?」

雅人少し考えてから言う。

「あの時さ。」

少し間。

「全く泣かなかったよね。」

陽一瞬止まる。

思い出してる顔。

そして小さく笑う。

「泣かなかったね。」

雅人続ける。

「俺、行きの飛行機で泣いた。」

陽驚く。

「え?」

雅人少し照れる。

「離れてから実感した。」

「あ、終わったんだって。」

陽静かに聞いてる。

陽小さく言う。

「私も。」

雅人見る。

陽続ける。

「新しい部屋行ってから泣いた。」

「毎日。」

雅人何も言えない。

陽少し笑う。

「あの時泣いたら。」

「まさくん行けなくなると思ったから。」

雅人息止まる。

陽普通に言う。

「もう行くの決めてたじゃん。」


雅人何も言えない。

陽少し照れて言う。

「好きな人の夢邪魔したくなかっただけ。」

雅人陽を見る。

長い時間見てた人の目。

そして小さく言う。

「なんでそんなに優しいの。」

陽笑う。

「優しくないよ。」

少し間。

「ただ好きだっただけ。」
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