真昼の星空
しばらくして雅人が、ふと思いついたように言う。

「ねえ、ようちゃんの写真も、なんかちょうだいよ」

「え?」

陽は目を丸くする。

「どこにも出かけてないから、写真もないよ」

そう言いながらスマホのフォルダを開き、指で画面を滑らせていく。

料理の写真もない。景色もない。
編みかけの毛糸やメモの画像ばかりだ。

「あ、あった」

そう言って雅人に見せたのは――

元日に撮った、38.5℃と表示された体温計の写真だった。

端には、寝転んだまま見上げたらしい白い天井が写り込んでいる。

雅人は目を見開いた。

「マジか!」

陽は肩を揺らして笑う。

「お正月にひとりぼっちで高熱出してるから、おかしくて記念に撮っておいたの」

くすくすと笑うその顔に、寂しさの影はない。

けれど雅人の胸は、ぎゅっと締めつけられた。

「それ、ちょうだい」

真顔だった。

陽は笑ったまま首を傾げる。

「え? 冗談だよ? こんなのいらないでしょ」

雅人は静かに陽を見る。

「もう一人で頑張らないで、誰か頼りな?」

その声はやさしく、少しだけ切なかった。

「だから、それちょうだい。送って」

「しょうがないなー」

陽は笑いながら、渋々という顔で写真を送信した。

通知音が鳴る。

雅人はすぐに画面を確認し、満足そうに頷いた。

「俺もこれ、待ち受けにしよ」

「やめてよ!」

陽は思わず声を上げ、身を乗り出す。

雅人は楽しそうに笑ったあと、ふっと表情を変えた。

「今度から、辛い時は俺に連絡しな?」

まっすぐな目だった。

「いつでも遠慮しなくていいから」

陽は一瞬言葉を失い、それから照れ隠しのように笑う。

「でも、まさとくん外国にいるし」

「その時は、日本にいる誰かに司令を出すから」

あまりにも真面目に言うので、陽は声を立てて笑った。

「わかった。ありがとう」

それから、少しだけ視線を落とし、何でもないことのように言った。

「まさとくんの彼女になれる人は、幸せだね」

雅人の胸が大きく鳴る。

けれど、その続きを聞く前に陽は時計を見て立ち上がった。

「あ、そろそろ時間だ! 行かなきゃ!」

慌ただしくコートを羽織り、バッグを肩にかける。

雅人も立ち上がり、ふたりで店を出る。

冬の冷たい空気が頬を撫でた。

そうだよ、ようちゃん。

心の中で、雅人は静かに答える。

俺の彼女になってくれたら、
絶対に幸せにする。

辛い恋をしているなら。
誰かを想って苦しいなら。

どうか、俺のところに来てほしい。
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