気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
浅草に着くと、駅を出た瞬間から賑やかな空気に包まれた。
観光客の笑い声。
お店から漂う甘い匂い。
風鈴の音が、夏の風に揺れている。
「うわぁ……」
茉尋は思わず足を止めた。
「テレビで見たことある」
「初めて?」
「うん」
「じゃあまずは仲見世通り行こっか」
希遥さんが先頭を歩き始める。
左右には色とりどりのお土産屋さんや食べ歩きのお店が並び、どこを見ても楽しそうだ。
「あ、これ美味しそう」
「もう食べるの?」
「別腹だから」
「朝ご飯食べたばっかりじゃん」
「それはそれ!」
希遥さんは迷うことなく焼きたてのお団子を買いに行く。
「相変わらず行動が早いな」
柊弥さんが苦笑する。
「希遥さんって、本当に食べること好きなんですね」
「食べるために生きてるからね」
「そんな大げさな」
「いや、本当」
想くんがぼそっと言う。
「想に言われると否定できない……」
みんなが笑った。
その間も茉尋はきょろきょろと辺りを見回している。
「あ」
ふと足を止めた先には、ガラスケースいっぱいに並ぶ食品サンプル。
「すげぇ、本物みたい」
「本物じゃないよ」
「分かってるって」
そう言いながらも、茉尋は興味津々で見入っている。
そんな様子を見ていると、私まで嬉しくなった。
「茉尋、写真撮ろうか?」
「え、いい」
「なんで?」
「恥ずかしい」
「せっかく来たんだから」
「姉ちゃん撮ってよ」
「私はいつでも撮れるもん」
「じゃあ俺が撮る」
柊弥さんがスマホを受け取る。
「ほら茉尋、そこ立って」
「えぇ……」
少し照れながら立つ茉尋。
その後ろでは、希遥さんがちゃっかりピースをしながら写り込もうとしていた。
「希遥さん!」
「記念記念!」
「写る気満々じゃん」
「だって楽しそうだから!」
シャッター音が鳴る。
きっと数年後に見返したら、今日のことを思い出すんだろう。
そんな気がした。