気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
夏休みだからか、電車の中は家族連れや観光客で賑わっていた。
「すご……」
茉尋が窓の外を見ながら小さく呟く。
高いビル。
何本も走る電車。
見慣れない景色が次々と流れていく。
「何回東京来ても、人の多さだけは慣れない」
「今日は平日なのにね」
「休日だったらもっとすごいよ」
希遥さんが笑う。
「え、これ以上?」
「うん」
「帰りたくなる」
「早っ!」
みんなで笑う。
電車を降りると、照り返しが一気に体を包んだ。
「暑っ!」
「だから言ったじゃん、今日は35度近いって」
「数字で聞くより暑い……」
茉尋は帽子を押さえながら空を見上げる。
真っ青な空、大きな入道雲。
これぞ夏、という景色だった。
「まずどこ行く?」
柊弥さんがスマホで地図を開く。
「浅草行きたい!」
「さっきベタって言われてたじゃん」
「でも行きたい!」
「じゃあ浅草からスカイツリーまで歩く?」
「え、歩けるの?」
「20分くらいかな」
「そんな近いんだ」
「途中で美味しいものもあるよ」
「じゃあそれで!」
希遥さんが勢いよく手を挙げる。
「賛成!」
「お前が一番楽しんでるだろ」
想くんが呆れたように言う。
「えへへ」
「否定しろ」
またみんなで笑う。
こうして、茉尋の東京観光が始まった。