気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
花火は少しずつ減っていった。
勢いよく火花を散らすもの。
くるくる回るもの。
ぱちぱちと音を立てるもの。
気付けば袋の中に残っていたのは、線香花火だけになっていた。
「最後だね」
柊弥さんがそう言うと、みんな自然と手を伸ばす。
1人1本ずつ。
火をつけると、小さな光が静かに揺れ始めた。
さっきまであんなに賑やかだったのに、不思議と誰も大きな声を出さない。
聞こえるのは虫の声と、時々、線香花火がぱちっと弾ける音だけ。
「線香花火ってさ」
希遥さんが小さな声で言う。
「なんか終わるの寂しくなるよね」
「分かる」
私は思わず頷いた。
楽しい時間の最後だからなのか。
夏の終わりを思わせるからなのか。
理由は分からないけれど、線香花火にはそんな空気がある。
「落ちそう」
茉尋が真剣な顔で火玉を見つめている。
「動かすなよ」
想くんがぼそっと言う。
「分かってる」
返事をしながらも、茉尋は少しだけ力が入っている。
その様子がおかしくて、思わず笑いそうになる。
でも笑ったら、本当に落ちてしまいそうで。
私は口元を押さえた。
やがて。
ぽとり。
最初に火玉が落ちたのは、希遥さんだった。
「あーー!」
悔しそうな声に、静かだったテラスへ笑い声が広がる。
「希遥最下位」
「まだ始まったばっかりなのに!」
「才能ないな」
「想にだけは言われたくない!」
またいつもの言い合いが始まる。
その声を聞きながら、私はまだ小さく光る自分の線香花火を見つめた。
明日になれば、茉尋は横浜へ帰る。
またこの家は、4人の生活に戻る。
少しだけ寂しい。
でも、この数日が終わるからこそ、きっと思い出になる。
そう思うと、この夏は今までより少しだけ特別な夏になった気がした。