気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -


8月8日。


朝から蝉の鳴き声が響いている。

昨日の花火が夢みたいに、今日も空はよく晴れていた。

リビングへ下りると、茉尋はもう荷物をまとめ終えていて、玄関にキャリーバッグが置かれていた。


「もう準備終わったの?」

「うん。忘れ物ない……と思う」

「あとでもう1回確認しなよ」

「分かってる」


そんな何気ないやり取りも、今日はどこか寂しく感じる。

朝食を食べ終え、いよいよ家を出る時間になった。


「もう帰っちゃうのかぁ」


希遥さんが名残惜しそうに言う。


「また遊びに来ます」

「約束だからね!」


「冬になったら、また違うところ案内してあげるよ」


柊弥さんが笑うと、茉尋も嬉しそうに頷いた。

靴を履き終えたその時だった。


「……これ」


想くんがコンビニの袋を茉尋へ差し出す。


「え?」


中を見ると、茉尋が好きだと言っていたコンビニに売っているお菓子が入っていた。

茉尋は少し驚いたように袋を見つめ、それから小さく笑った。


「ありがとうございます」

「宿題もちゃんとやれよ」

「……はい」


短いやり取りなのに、どこか想くんらしかった。

やっぱり、面倒見がいい。

玄関を出ると、希遥さんは最後まで大きく手を振っていた。


「また来てねー!」

「はい!」

「またな」


想くんの一言に、茉尋も笑って頷く。


「また来ます」


その言葉が、とても自然に聞こえた。


春、知らない人たちと暮らすことが、不安で仕方なかった。

だけど今は、この家には「ただいま」と帰りたいと思える。

家族じゃない。

それでも、一緒に笑って、ご飯を食べて、毎日を過ごして。

そんな人たちがいる。

今年の夏は、そのことを何度も感じた夏だった。

ひとりじゃない夏。

その思い出は、きっとこれからも、この桜ノ木ハウスで少しずつ増えていく。
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