気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
その時だった。
「朝から何の話?」
後ろから聞き慣れた声がした。
振り返ると、希遥さんがまだ少し眠そうな顔でリビングへ入ってくる。
「茉桜が可愛いって話」
柊弥さんがあっさり答える。
「なるほどねぇ、……え?」
一瞬だけ空気が止まる。
「……は?」
希遥さんが目を丸くした。
ちょうどそのタイミングで、想くんもリビングへ入ってくる。
「何」
「あのね、柊弥がね」
希遥さんは面白そうに笑う。
「茉桜ちゃん可愛いって」
想くんの視線が一瞬だけ柊弥さんへ向いた。
「誤解を招く言い方するなって」
柊弥さんが苦笑する。
「後輩としてって意味」
「あぁ」
想くんは興味なさそうに冷蔵庫を開ける。
その反応を見て、私はなぜか少しだけ力が抜けた。
「学祭あるだろ?」
柊弥さんが話を戻す。
「知らない人にも結構話しかけられると思うからさ」
「はい」
「困ったら誰か呼べばいい。俺でも希遥でも、想でも」
「俺?」
想くんが振り返る。
「同じ大学なんだから助けるだろ?」
「……状況による」
「ほら、そういうこと言う」
希遥さんが笑う。
「でも想は、結局助けるんだよね」
「知らん」
いつもの返事。
だけど、誰も本気では受け取っていなかった。
学園祭まで、あと約1か月。
賑やかな秋が、もうすぐ始まろうとしていた。