気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -


看板を倉庫の奥へ立て掛ける。


「ここでいいか」

「うん、ありがとう」


茉桜は嬉しそうに笑った。

その笑顔を見て、小さく息を吐く。


「次からは誰かいる時に運べ」

「はい……」


返事だけは素直だ。


「じゃ」


用は済んだ。

俺は養生テープを持ち直して倉庫を出る。

廊下を歩きながら、ふと思う。

……何やってんだ、俺。

養生テープを取りに来ただけだった。

看板なんて運ばなくてもよかった。

茉桜だって、少し待てば友達が戻ってきたはずだ。

それなのに。

危ないと思った瞬間には、体が動いていた。


「放っとけねぇな……」


誰にも聞こえないくらい小さく呟く。

その言葉に、自分で少しだけ眉をひそめた。

放っておけない。

そんなこと、今まで思ったことはなかった。

少なくとも、この家に住むまでは。







「おっ、想帰ってきた」


逸晟が段ボールを切りながら顔を上げる。


「遅かったな」

「看板運んでた」

「……は?」


逸晟の手が止まる。


「誰の?」

「教育」

「教育って……」


少し間が空いて。


「茉桜ちゃん?」

「……そう」

「え、お前が?」

「倒れそうだったから」


逸晟は数秒黙る。

それから、にやっと笑った。


「想、それ結構重症だぞ」

「何が」

「自覚ない?」

「だから何が?」

「いや、だからさ!」

「意味分からん」

「はいはい」


逸晟はそれ以上言わなかった。

でも、どこか面白そうに笑っていた。


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