気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
建築の作業場へ戻ると、段ボールを切る音が響いていた。
「遅かったな」
逸晟が顔を上げる。
「養生テープあった?」
「あった」
袋を机に置く。
「助かった。これで入口作れるわ」
逸晟はすぐに作業へ戻る。
俺もカッターを手に取り、迷路のパネルを組み立て始めた。
学園祭まで、あと2週間。
今年は例年以上に来場者が多いらしい。
その分、迷路の安全確認もいつも以上に厳しい。
通路幅。
非常口。
案内表示。
少しでも気になるところがあれば、その場で修正する。
「想、その角もう少し丸くした方がよくない?」
「……そうだな」
カッターを入れ直す。
作業に集中しているはずなのに。
ふとした瞬間。
さっきの光景が頭をよぎった。
大きな看板。
見えない足元。
ぐらっと傾いた体。
「危な」
……本当に危なかった。
「想?」
「……あ?」
「聞いてた?」
「悪い」
逸晟がじっとこっちを見る。
「珍しいじゃん。今日集中切れてる」
「そんなことない」
「あるって」
「気のせい」
そう返しながら、もう一度カッターを動かす。
なのに。
どうしても、さっきのことが頭から離れなかった。