気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
迷路の中は昼間だというのに薄暗い。
壁は高く、少し先も見えない。
この迷路は、設計した本人だから道順は頭に入っている。
右。
左。
次の角を曲がる。
「……茉桜?」
返事はない。
もう少し奥へ進む。
「茉桜ー」
少しだけ声を張る。
すると。
「……想くん?」
遠くから聞き慣れた声が返ってきた。
思わず足を止める。
「こっちか」
声のした方へ進むと、段ボールの角からひょこっと茉桜が顔を出した。
ぱっと表情が明るくなる。
「想くん!」
「……何やってんだ」
「迷った」
「見りゃ分かる」
「最初は順調だったんだけど」
「途中で奈瑠と別れたら分かんなくなって」
「だから別れるなって話」
「だってすぐ合流できると思ってたんだもん」
悪びれる様子もなく笑う。
……本当に危機感がない。
「出口こっち」
「うん!」
茉桜は素直についてくる。
迷路の中は人ひとり通れるくらいの幅しかない。
だから自然と距離が近い。
後ろから小さな足音がついてくる。
「想くん」
「何」
「ありがとう」
「……別に」
短く返して前を向く。
放っておけば、そのうち自力で出てきたかもしれない。
それでも。
奈瑠だけが出てきた時、気付けば体が動いていた。
……なんでだ。
迷子なんて、本人の自己責任だろ。
なのに。
あいつのことになると、放っておけない。
自分でも、その理由はまだ分からなかった。