気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -


「最近付き合ってた子と別れてさ」


湊都は軽い口調でそう言った。

私は何も言えなかった。


「それで色々考えてたんだよね」

「やっぱり、一番落ち着くのって茉桜だったなって」


胸の奥が、すっと冷えていく。

……そういうことだったんだ。


「だから、もう一回ちゃんとやり直したい」

「今度は前みたいなことしないし」

「前より大事にする」


私はゆっくり顔を上げた。


「それ、本気で言ってるの?」

「本気だけど?」


迷いのない返事だった。

だからこそ、苦しかった。


「湊都」


私は静かに息をつく。


「私と別れた理由、覚えてる?」

「……」

「好きな人ができたからって言ったよね」

「それは……」

「その人とうまくいかなくなったから、今度は私?」


湊都は少しだけ言葉に詰まる。


「違うって」

「違わないよ」


私の声は、自分でも驚くくらい落ち着いていた。

怒っているわけじゃない。

泣きそうなわけでもない。

ただ。

悲しかった。


「私、ちゃんと前に進こうって頑張ってた」

「やっと、この生活にも慣れて」

「毎日が楽しいって思えるようになった」


桜ノ木ハウスで過ごした半年が頭に浮かぶ。

みんなと笑って、ご飯を食べて。

くだらないことで言い合いをして。

そんな毎日が、少しずつ私の傷を埋めてくれた。


「なのに今さら、『戻ろう』なんて言われても」


私は小さく首を横に振る。


「もう、戻れないよ」


その言葉を聞いた湊都は、納得できないというように眉をひそめた。


「……好きな人でもできた?」


その一言に、私は思わず息をのんだ。


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