気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「……いないよ」
すぐに答える。
嘘じゃない。
恋人はいないし、「好き」と呼べる人もいない。
少なくとも、自分ではそう思っている。
「じゃあさ」
湊都は少しだけ安心したように笑う。
「別に戻れるじゃん」
私は思わず目を見開いた。
「……どうしてそうなるの?」
「だって、もう終わったことじゃん」
「俺も反省してるし」
「今ならちゃんと大事にできる」
その言葉は、不思議なくらい胸に響かなかった。
昔なら。
きっと少しは期待してしまっていた。
「ごめん」
私は静かに首を横へ振る。
「私は戻るつもりない」
「なんで?」
「……」
「俺、本気なんだけど」
その”本気”という言葉が、少しだけ引っかかった。
本気なら。
どうしてあの時、あんな終わり方をしたんだろう。
本気なら。
どうして別の人を選んだんだろう。
本気なら。
どうして、その人とうまくいかなくなった今になって戻ってきたんだろう。
考えれば考えるほど、答えはひとつしかなかった。
私はもう、この人を信じられない。
「湊都」
私はまっすぐ彼を見た。
「私ね」
「今の生活がすごく好きなの」
そう言うと、湊都は少し不思議そうな顔をした。
「大学も」
「友達も」
「今、一緒に暮らしてる人たちとの毎日も」
湊都の表情が少しだけ変わる。
「……一緒に暮らしてる?」
「うん」
私は小さく頷く。
「シェアハウスで暮らしてるの」
驚くと思った。
でも、それ以上の説明はしなかった。
毎日「ただいま」って帰る場所があって。
誰かとご飯を食べて。
くだらないことで笑って。
そんな当たり前が、今の私には何より大切だった。
「だから」
私は小さく笑う。
「その毎日を、もう壊したくない」