気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
しばらく誰も口を開かなかった。
重たい沈黙が流れる。
やがて湊都が小さく息を吐いた。
「……ずいぶん言うじゃん」
想は何も返さない。
ただ、まっすぐ湊都を見ている。
その視線に居心地が悪くなったのか、湊都は一度だけ苦笑した。
「悪かったよ」
そう言いながらも、その声に反省の色はあまり感じられなかった。
「茉桜」
名前を呼ばれ、私は顔を上げる。
「今日は帰る」
その言葉に少しだけ安心した。
でも、次の一言でその安心は消えた。
「……でも」
湊都は真っすぐ私を見る。
「俺、諦めたわけじゃないから」
「……え」
「今は無理でも、そのうち気持ち変わるかもしれないだろ」
私はゆっくり首を横に振る。
「変わらないよ」
「それは今だから言えること」
湊都はどこか自信があるように笑った。
「昔、お前は俺のこと好きだった。それは事実だろ?」
胸が少しだけ苦しくなる。
否定はできない。
好きだった。
本気で好きだった。
だからこそ、傷ついた。
「人の気持ちなんて、また変わる」
「俺はそう思ってる」
私は何も答えなかった。
答える気にもなれなかった。
湊都は小さく肩をすくめる。
「じゃあ、またな」
そのまま背を向け、人混みの中へ歩いていく。
誰も、その背中を呼び止めなかった。
姿が見えなくなってからも、私はしばらくその場を動けずにいた。
「……大丈夫か」
隣から聞こえた低い声に、ゆっくり顔を上げる。
そこには、さっきまで湊都と向き合っていた想が立っていた。