気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -


湊都の姿が人混みへ消えていく。

その背中が見えなくなった瞬間だった。

張っていた糸が、ぷつりと切れた。


「……っ」


涙が滲む。

泣くつもりなんてなかった。

怖かったわけじゃない。

悲しかったわけでもない。

ただ、終わったと思っていた過去が、急に目の前へ現れて。

また少しだけ心を掻き乱された。

それだけだった。

私は慌てて目元を拭う。


「……ごめん」


小さく笑おうとした。

でもうまく笑えない。


「泣くつもりじゃなかったのに」


声が少しだけ震えた。

隣に立つ想は何も言わない。

ただ、少し困ったような顔をしている。


「……」


何か言おうとして。

やめて。

また口を開こうとして。

結局、何も言えない。

その様子が少しだけ可笑しくて。

それなのに涙は止まらなかった。


「……悪い」


ぽつりと想が言う。


「こういう時、何て言えばいいか分かんねえ」


私は首を横に振る。


「想くんは悪くないよ」

「……」


また沈黙が流れる。

次の瞬間。

ぽん。

頭に、小さな温もりが乗った。


「……え」


想の手だった。

ぎこちなく。

本当にぎこちなく。

子どもをあやすみたいに、一度だけ頭を軽く叩く。

本人もこれで合っているのか分からないらしく、手はすぐに離れた。


「……」

「……」


お互いに黙る。

数秒後。


「違ったか」


想がぼそっと呟く。

その一言がおかしくて。

私は涙を流したまま、小さく笑ってしまった。


「……ふふっ」

「笑うな」

「だって……そんなことする人だと思わなくて」


想は少しだけ目を逸らす。


「俺も思ってねえよ」


耳が少しだけ赤くなっていた。


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