気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「……戻るぞ」
想が一言だけ言う。
私は目元をこすって頷いた。
「うん」
2人で歩き始める。
さっきまでの沈んだ空気が少しずつ遠ざかり、学園祭の賑やかな声が戻ってくる。
焼きそばの匂い。
子どもの笑い声。
ステージから聞こえる吹奏楽。
大学はさっきまでと変わらず、お祭りの真っ最中だった。
フルーツ飴の模擬店。
「茉桜!」
奈瑠が駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
「うん、ごめんね」
「ほんと?」
「大丈夫」
奈瑠は少しだけ安心したように息を吐く。
その後ろで、
「想!迷路やばい!」
逸晟が大声で呼ぶ。
「親子連れ詰まってるって連絡きた!」
「……行く」
想はそれだけ言って歩き出す。
途中、一度だけ振り返る。
「……」
目が合う。
何も言わない。
でも、
“もう大丈夫そうだな”
そう確認するみたいに小さく頷いて、そのまま建築棟の方へ走っていった。