気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
体温
朝、目が覚めた瞬間、喉に違和感があった。
唾を飲み込むだけで、ひりっと痛む。
「……いた」
声を出してみると、自分でも驚くくらい掠れていた。
どうやら、風邪をひいてしまったみたいだ。
「おはよう」
「……おはよう。茉桜ちゃん、その声どうしたの?」
リビングへ下りると、希遥さんがすぐに異変に気付いた。
「なんか……朝起きたら喉が痛くて」
「うわ、ほんとだ。声ガラガラじゃん」
「茉桜が風邪なんて珍しいね」
柊弥さんも心配そうに顔を覗き込む。
「熱は?」
「熱は……多分ないと思います」
本当は少し頭も重い。
でも、それを言ったら絶対に大学を休むよう言われる。
「今日学校休んだら?」
「今日、模擬授業の発表があるんです。グループ発表だから、私だけ休むわけにはいかなくて……」
「でも、その声で発表できるの?」
「喉以外はほら、全然元気なんで!」
できるだけ明るく笑ってみせる。
すると希遥さんは「うーん」と納得していない顔をしながら立ち上がった。
「茉桜ちゃん、これ」
差し出されたのは、小さなのど飴の袋。
「私のだけど、あげる」
「え、こんなにいいんですか?」
「今は喉痛くないし。余ってるだけだから気にしないで」
「ありがとうございます」
思わず笑うと、希遥さんも「ちゃんと舐めるんだよ」と笑い返してくれた。
その横で、柊弥さんが真面目な顔で口を開く。
「無理だと思ったら、ちゃんと帰ってくること」
「……はい」
「約束」
「約束します」
その言葉に頷き、風邪薬を飲んでマスクをつける。
大丈夫。
今日1日だけ乗り切ればいい。
そう自分に言い聞かせながら、私は大学へ向かった。