気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
そのあと起きてきた希遥さんは、想くんから事情を聞くなり大騒ぎだった。
「えぇ!想、一晩ここにいたの!?」
「寝落ちしただけ」
「それでも優しいじゃん!」
「違う」
「照れてる!」
「違う」
そんなやり取りを見ていると、自然と笑ってしまう。
「茉桜ちゃん笑ってる!」
「昨日より顔色いいね!」
「うん。だいぶ楽になった」
「よかったぁ」
希遥さんは安心したように胸をなで下ろした。
その頃には、2階から柊弥さんも降りてくる。
「あれ?茉桜、おはよう」
「おはようございます」
「熱どう?」
「37.8℃まで下がりました」
「それなら少し安心かな」
柊弥さんもほっとしたように笑う。
想くんはコーヒーをひと口飲むと、時計へ目を向けた。
「行ってくる」
「もう?」
「1限」
「あ、そっか」
荷物を持ち、玄関へ向かう。
靴を履き終えると、ふと私の方を見た。
「今日はちゃんと寝とけ」
「……うん」
「無理すんな」
短くそれだけ言って、玄関の扉が閉まる。
「行ってらっしゃい」
返事は聞こえなかった。
それでも。
ぶっきらぼうなその一言が、不思議なくらい嬉しかった。
風邪をひいたのはつらかった。
でも、そのおかげで知れたこともある。
言葉は少ないけれど。
ちゃんと、人を気にかけてくれる人なんだ。
私は温かくなったスポーツドリンクをひと口飲みながら、小さく笑った。
窓の外では、昨日降り始めた雪が、まだ静かに街を白く染めていた。