気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
住宅街へ入ると、人通りはぐっと少なくなった。
街灯に照らされた濡れたアスファルトが、きらきらと光っている。
「そういえば」
私が口を開く。
「このマフラー、洗って返すね」
「そのままでいい」
「え?」
「別に気にしない」
「でも、一応……」
「風邪うつってないし」
「そういう問題じゃなくて」
思わず笑ってしまう。
「ちゃんと洗って返したいの」
想くんは少しだけ黙ると、
「……じゃあ任せる」
とだけ答えた。
「うん」
その返事が、なんだか少し嬉しかった。
その時。
ビュッ。
冷たい風が吹き抜ける。
「うわっ」
思わず肩をすくめた拍子に、首へ巻かれたマフラーが少し緩んだ。
「あ……」
結び直そうと手を伸ばす。
でも、慣れない巻き方だからうまくいかない。
「……貸して」
想くんが立ち止まる。
「え?自分でできるよ」
「できてない」
「うっ……」
言い返せない。
私は大人しく手を下ろした。
想くんは私の前に立つと、少しだけ屈んでマフラーへ手を伸ばした。
無駄のない手つきで結び直していく。
「こう」
ぽん、と軽く形を整える。
「緩いと風入る」
「……ありがとう」
顔を上げる。
その瞬間だけ、ふと目が合った。
想くんは何も言わずに視線を逸らすと、
「行くぞ」
と一言。
私は慌ててその背中を追いかけた。
歩きながら、そっと首元へ触れる。
まだ少しだけ残っている温もり。
マフラーが暖かいのか。
それとも。
さっき近くにいた想くんの体温が残っているだけなのか。
自分でも分からなかった。
でも、冬の冷たい風は、もうあまり寒く感じなかった。