気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
午後の講義を終え、私は奈瑠と一緒に建物を出た。
冬の空気は相変わらず冷たい。
吐く息が白くなって、思わずマフラーへ顔を埋める。
「今日は寒いね」
「朝より冷えてきたかも」
そんな何気ない話をしながら、校門へ向かって歩く。
けれど。
胸の奥に残るざわつきは、まだ消えていなかった。
さっき見た人影。
見間違えるはずがない。
あれは確かに湊都だった。
「……」
どうして。
どうしてこの大学にいるんだろう。
湊都は私とは別の大学へ進学した。
だから偶然会うことなんて、ほとんどないはずなのに。
「茉桜?」
奈瑠が不思議そうに顔を覗き込む。
「ほんとに大丈夫?」
「う、うん」
「なんかあった?」
慌てて笑ってみせる。
「ちょっとぼーっとしてただけ」
「ならいいけど」
奈瑠はそれ以上聞いてこなかった。
私は少しだけほっと息をつく。
今話したら、きっと心配させてしまう。
それに。
もしかしたら、本当にただの偶然かもしれない。
そう思いたかった。
校門を出て、駅へ向かう横断歩道で信号待ちをする。
赤信号。
車が何台も通り過ぎていく。
何気なく道路の向こう側へ目を向けた、その瞬間。
「……っ」
黒いコート。
信号の反対側。
人混みの中に立つ湊都が、こちらを見ていた。
今度は見間違いじゃない。
確かに目が合った。
心臓がどくりと鳴る。
そのまま動けずにいると、青信号へ変わる音が鳴った。
「茉桜、行こ!」
奈瑠に腕を軽く引かれ、私は我に返る。
「……うん」
慌てて歩き出す。
もう一度だけ振り返る。
そこには、もう湊都の姿はなかった。
胸のざわつきだけが、静かに残り続けていた。