気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
湊都は笑っている。
でも、その笑顔は、前に知っていたものとは少し違った。
焦りを隠すような、不自然な笑み。
「そんな警戒しなくてもいいじゃん」
「……何」
「少し話したいだけ」
「話すことないって、何回も言ったよね」
「そうかな」
湊都が一歩近付く。
私は反射的に一歩下がった。
その距離を見て、湊都は苦く笑う。
「そんなに避ける?」
「……」
「俺、そんなに怖い?」
返事はしなかった。
返したら、そのまま話に引き込まれてしまいそうだったから。
「茉桜」
「俺、本気でやり直したいだけなんだ」
「無理」
間を空けずに答える。
「もう終わってる」
「終わってない」
「終わってる」
「俺は終わらせるつもりない」
その一言に、胸がぎゅっと締めつけられた。
この人は、私の気持ちなんて見ていない。
自分が納得していないから、終わっていない。
ただ、それだけなんだ。
「お願い」
私は震えそうになる声を押さえながら言った。
「もう来ないで」
「大学にも」
「家の近くにも」
「もう来ないで」
一瞬だけ、沈黙が落ちる。
湊都は私を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……その家のやつ」
ぽつりと呟く。
「西澤だっけ」
胸がざわつく。
「付き合ってるなんて、嘘だろ」
私は何も答えない。
「俺には分かる。まはそんな簡単に人を好きにならない」
昔を知っているからこその言葉。
一瞬だけ心が揺れそうになる。
でも、それは”昔”の私だ。
「……もう、あなたには関係ない」
そう言って、横を通り過ぎようとした。
その瞬間。
ぐいっ。
手首を掴まれた。
「っ……!」
突然の力に体が止まる。
冷たい指が、逃がさないと言うように私の手首へ食い込んだ。