気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
想くんは私の前まで歩いてくると、私と湊都の間へ静かに割って入った。
「手」
短い一言。
湊都は動かない。
「聞こえなかった?」
想くんの声は低く落ち着いていた。
怒鳴っているわけじゃない。
それなのに、空気が一気に張りつめる。
数秒の沈黙。
やがて湊都は舌打ちにも似た小さな息を吐き、ゆっくりと私の手首を放した。
自由になった手首を思わず胸元へ引き寄せる。
掴まれていた場所がじんじんと熱を持っていた。
「大丈夫か」
想くんが私を見る。
「……うん」
そう答えたものの、声は少し震えてしまった。
想くんは赤くなった私の手首を一瞬だけ見つめる。
その表情が、ほんの少しだけ険しくなった。
「西澤」
湊都が静かに口を開く。
「彼氏気取り?」
「違う」
想くんは即座に答えた。
想くんは静かに答える。
「じゃあ何だよ」
少しだけ間が空く。
「守るって決めてる」
湊都は小さく笑う。
想くんは私を一度だけ振り返った。
「茉桜」
「……なに」
「話したいか」
私は首を横に振る。
「話したくない」
「帰りたい」
その言葉を聞いた想くんは、再び湊都へ向き直った。
「答え」
静かな声だった。
「これ以上、何が必要」
湊都の表情から笑みが消える。
「……お前には関係ないだろ」
「ある」
想くんは真っ直ぐ湊都を見た。
「今、この場では」
「嫌だって言ってる相手を引き止めてる時点で、お前が相手だろうが元彼だろうが関係ない」
周囲を歩いていた学生たちも、少しずつ足を止め始めていた。
ざわ、と空気が動く。
それでも想くんは視線を逸らさない。
「帰るぞ」
そう言って、私の方へ手を差し出した。