気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
差し出された手を見つめる。
少しだけ震えていた自分の手。
さっきまで掴まれていた手首は、まだじんと熱を持っている。
「……」
私はそっと、その手へ自分の手を重ねた。
想くんは何も言わない。
ただ、私の手を軽く包むように握ると、そのまま私を自分の隣へ引き寄せた。
「行く」
短くそう言って歩き出す。
私も一歩遅れて、その背中を追った。
「待てよ」
後ろから湊都の声が飛ぶ。
足は止まらない。
「茉桜!」
その名前を呼ぶ声だけが、冬の空気に響いた。
「お前、本当にそれでいいのか!」
想くんは振り返らない。
私も振り返らなかった。
もう振り返りたくなかった。
「俺はまだ諦めない!」
その叫びが背中へ突き刺さる。
胸が苦しくなる。
怖い。
でも、それ以上に。
隣から伝わってくる手の温もりが、少しだけ私を落ち着かせてくれた。
駅へ向かう人混みへ入ると、後ろの声は少しずつ遠ざかっていく。
しばらく歩いたところで、想くんが小さく息を吐いた。
「……痛むか」
視線は前を向いたまま。
問いかけだけが静かに届く。
「うん……少しだけ」
そう答えると、想くんは足を止めた。
そして、私の手首へそっと目を向ける。
赤く残った指の跡を見て、眉をわずかに寄せた。
「病院」
「え?」
「いや……その前に」
小さく考えるように間を置いてから、ぽつりと言う。
「冷やそう」
その不器用な優しさに、張りつめていた心が少しだけほどけた。