気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -


夜。

リビングの電気は消え、家の中は静かだった。

試験勉強の為、机に向かう予定だった。

参考書を広げ、ペンを持つが、ダメだった。

頭に浮かぶのは、今日のことばかりだった。

茉桜が手首を掴まれていた光景。

怯えた表情。


「離して」


震えた声。

何度振り払おうとしても、頭から消えない。


「……」


小さく息を吐く。

こんなに集中できないのは久しぶりだった。

窓の外を見る。

冷たい夜空。

街の灯りだけが静かに瞬いている。

俺は昔から、人と深く関わるのが得意じゃなかった。

必要以上に踏み込まない。

踏み込ませない。

その方が楽だった。

シェアハウスに住み始めても、それは変わらないと思っていた。

最初は、ただの同居人。

少し世話が焼ける住人。

それくらいだった。

なのに。

いつからだろう。

朝、リビングへ行けば茉桜がいて。


「おはよう」


その一言があるのが当たり前になった。

講義帰りに偶然会えば、一緒に帰ることも増えた。

風邪を引けば心配して。

雪が降れば笑って。

くだらないことで笑い合う。

そんな毎日が、いつの間にか当たり前になっていた。


「……当たり前、か」


小さく呟く。

もし。

今日、あの場へ行かなかったら。

もしあと5分遅れていたら。

そう考えただけで、胸の奥がざわついた。

あんな顔は、もう見たくない。

怖がる姿も、泣きそうな顔も、二度と。


その時だった。

コンコン。

部屋のドアが小さく鳴る。


「想?」


柊弥の声だった。


「起きてる?」

「……うん」


ドアが開き、柊弥が静かに部屋へ入ってくる。


「少し、話せる?」


俺は黙って頷いた。
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