気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
柊弥は部屋へ入ると、俺の机の横へ寄りかかった。
「勉強、進んでないみたいだね」
「……」
図星だった。
開いたままの参考書は、30分以上同じページのまま。
ペンもほとんど動いていない。
「今日のこと考えてた?」
「うん」
隠す気にもなれなかった。
柊弥は少しだけ笑う。
「想ってさ」
「昔なら、あそこまでしなかったよね」
「……」
返事ができない。
確かにそうだった。
知らない人同士の揉め事なら、警察を呼べばいい。
友達なら手を貸す。
それだけ。
でも今日は違った。
気付いたら体が動いていた。
「守るって言ってたね」
その言葉に、思わず目を伏せる。
「あれ、本音?」
少しだけ沈黙が落ちた。
否定しようと思えばできた。
“シェアハウスの住人だから”
“放っておけないだけ”
今までなら、そう答えていた。
でも今日は。
その言葉が出てこなかった。
「……本音」
ぽつりと漏れる。
柊弥は驚かなかった。
「そっか」
それだけ言って、小さく笑う。
「気付いた?」
俺は苦笑するしかなかった。
「……多分」
胸の奥が、少しだけ苦しい。
茉桜が怖がる姿を見た時。
手首を掴まれていた時。
頭に浮かんだのは怒りだけじゃなかった。
“守りたい”
ただ、それだけだった。
「……好きなんだと思う」
声に出した瞬間だった。
胸の中で曖昧だった気持ちが、ゆっくり形になる。
もう誤魔化せなかった。
守りたい。
笑っていてほしい。
泣かせたくない。
その全部の理由は、たった一つだった。
俺は、
茉桜が好きだ。