気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -


そう答えると、想くんは小さく息を吐いた。

怒っているわけじゃない。

でも、少し困っているように見えた。


「盗み聞きするつもりじゃなくて」

「分かってる」


すぐに返ってきた言葉。

その優しさに、逆に戸惑う。


「……昨日のお礼、言いたかったの」

「別に」

「別にじゃないよ」


思わず言葉が強くなる。


「助けてくれたじゃん」

「当たり前のことしただけ」

「それでも」


私は想くんを見る。


「怖かった時、隣にいてくれた」

「……」

「本当にありがとう」


頭を下げる。

少しの沈黙。

顔を上げると、想くんは視線を逸らしていた。


「……そういう顔するな」

「え?」

「困る」

「困る?」

「礼言われるの、慣れてない」


思わず笑ってしまう。


「想くんらしい」

「何それ」

「褒めてる」

「分かりにくい」

「想くんに言われたくない」


久しぶりに。

自然に会話ができた気がした。

その瞬間。

想くんの表情が少しだけ緩んだ。

ほんの一瞬。

でも確かに笑った。


「……」

「何?」

「いや」

「今、笑った?」

「笑ってない」

「笑ったよ」

「気のせい」

「絶対笑った」

「しつこい」


そう言いながら、想くんは少しだけ口元を隠した。

その姿が、なんだか新鮮だった。


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