気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
湊都はしばらく黙っていた。
私の言葉が予想外だったのかもしれない。
「……終わらせるって」
「うん」
「俺はまだ終わってないと思ってる」
「でも、私は終わってる」
迷いなく答える。
前なら。
こんなふうに言えなかった。
「茉桜」
湊都が一歩近付く。
でも。
今度は私も下がらなかった。
「俺、本当に反省してる」
「……」
「自分がどれだけ傷付けたか分かった。だから、もう一回やり直したい」
真剣な表情だった。
嘘を言っているようには見えない。
昔の私なら。
その言葉を信じようとしたかもしれない。
「俺、変わったから」
「もう同じことしない」
「茉桜のこと大事にする」
胸の奥が少し痛む。
大事にする。
その言葉を、昔どれだけ欲しかっただろう。
付き合っていた頃。
湊都は優しかった。
一緒にいる時間は楽しかった。
笑い合ったことも。
幸せだと思った瞬間も、確かにあった。
だからこそ。
あの日のことが苦しかった。
「……湊都」
「なに?」
「私ね」
ゆっくり言葉を選ぶ。
「湊都のこと、ちゃんと好きだったよ」
湊都の表情が揺れる。
「本当に好きだったから、あの時すごく苦しかった」
裏切られたこと。
信じていた人に傷付けられたこと。
「別れた後も」
「何度も考えた」
「私が我慢すればよかったのかなって」
「もう一回信じてもいいのかなって」
でも。
「でもね」
私は湊都を見る。
「時間が経って分かったことがある」
「私は、湊都と戻りたいんじゃなくて」
「傷付いた自分を、納得させたかっただけだった」
湊都は何も言わない。
「変わったって言ってくれたけど」
「私が怖かったこと」
「苦しかったこと」
「それは消えない」
冷たい風が吹く。
髪が揺れる。
「だから」
「もう戻れない」
湊都の顔が、少しずつ苦しそうに歪んでいく。
「……本当に?」
「うん」
「西澤のことがいるから?」
その名前が出て、私は少しだけ驚く。
「違う」
すぐに否定する。
「想くんは関係ない」
「これは」
「私と湊都の問題だから」
その言葉を口にした瞬間。
胸の奥にあった重たいものが、少しだけ軽くなった気がした。