気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -


「……そっか」


湊都は小さく呟いた。

怒っているわけでもない。

泣いているわけでもない。

ただ、受け入れられないような顔をしていた。


「じゃあ」


少し間を置いて。


「西澤がいるから?」

「違うって言ったよね」

「でも」


湊都は苦しそうに笑う。


「俺にはそう見える」

「前まで、誰かと住むなんて考えられなかっただろ。人にそんな簡単に心開かなかっただろ」


「……」

「なのに西澤にはあんな顔する」


胸が少しだけ揺れる。


「……」


確かに。

最初はただの同居人だった。

ぶっきらぼうで何を考えているか分からなくて。

何度も驚かされた。

でも。


「想くんは」


自然と言葉が出た。


「私が嫌なことを、ちゃんと嫌だって聞いてくれる」


湊都の表情が変わる。


「私が無理して笑ってる時も何も言わないけど、気付いてくれる」

「風邪を引いた時も寒い日にマフラーを貸してくれた時も」


一つ一つ小さな出来事だった。

でも。


「そういう何気ないことが私は嬉しかった」


湊都は黙って聞いていた。


「湊都と付き合っていた時楽しかったよ」


だからこそ。


「嫌いになったわけじゃない。でももう、あの頃には戻れない」


湊都の手が少し震える。


「俺じゃ、もう無理なんだ」

「……うん」


その返事をするのは苦しかった。

でも曖昧にしたら、また誰かを傷付ける。


「ごめん」

「謝らないで」

「でも」

「ありがとう」


湊都が顔を上げる。


「え?」

「好きになってくれたこと」

「一緒にいた時間」

「全部嘘じゃなかったから」


それだけは伝えたかった。


「でも」


一歩後ろへ下がる。


「もう私の人生に、湊都の居場所はない」


静かな言葉だった。

今までで一番、自分の気持ちに正直な言葉だった。

湊都はしばらく何も言わなかった。

やがて。


「……分かった」


小さく呟く。


「もう、追いかけない」


その言葉を聞いて。

初めて、少しだけ肩の力が抜けた。


「茉桜」


最後に名前を呼ばれる。


「幸せになれよ」


その声は。

昔好きだった人の声だった。


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