気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
しばらく歩いた帰り道。
会話は少なかった。
でも、気まずい沈黙ではなかった。
隣にいる。
それだけで、不思議と落ち着いた。
桜ノ木ハウスが見えてくる。
もうすぐ着いてしまう。
そう思った瞬間。
「茉桜」
想くんが足を止めた。
「……なに?」
振り返る。
想くんは少しだけ迷うように視線を落とした。
「俺」
「言わないといけないことがある」
その真剣な声に、自然と背筋が伸びる。
「うん」
冬の終わりの風が吹く。
庭の桜の枝が揺れる。
「最初は」
想くんがゆっくり話し始める。
「ただの同居人だった」
分かっていた。
私もそうだった。
「でも、いつの間にか違ってた」
想くんが私を見る。
「茉桜が笑ってると嬉しい」
「困ってると助けたくなる」
「誰かに傷付けられると、許せないと思う」
胸が熱くなる。
「それが何なのか」
「ずっと考えてた」
少しだけ苦笑する。
「でも」
「もう分かった」
一歩だけ近付く。
「俺、茉桜のことが好き」
時間が止まったような気がした。
「……」
言葉が出ない。
嬉しい。
でも、信じられない。
「急に言われても困ると思う。でも」
想くんは続ける。
「もう隠せない」
まっすぐな目。
「茉桜の隣にいたい。これからも、俺が……守りたい」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥にあったものが、ゆっくりほどけていく。
湊都とのこと。
傷付いた日々。
もう恋なんてしないと思っていた自分。
全部。