気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
家の前まで来た、その時。
「……そこ、通ります」
低い声に顔を上げる。
寝癖のついた黒髪。
眠そうな目。
段ボールを抱えた男の人が、私の横を通り過ぎようとしていた。
「あ、すみません!」
慌てて道をあける。
でも、その人は軽く会釈しただけで、そのまま家の中へ入っていった。
……感じ悪。
ああいう人、苦手かもしれない。
大家さんから預かった鍵をカバンからだし、鍵を開ける。
そーっと扉を開け、
「……こんにちは〜」
家の中は静まり返っている。
誰もいないのかな?
そう思ったその時。
「いらっしゃい」
「はじめまっ……え?」
「久しぶり!茉桜」
「……え、柊弥さん!?なんで!?」
「なんでって、俺ここに住んでるから」
「え!?」
奥の部屋から出てきたのは、知っている顔だった。
「びっくりした?」
「そりゃびっくりしますよ。え、柊弥さん私がここに来ること知ってたんですか?」
「大家さんから新しい子の名前は聞いていたからね」
「それなら連絡くださいよ!」
「驚かせようと思ってね〜」
柏木 柊弥(かしわぎ しゅうや)さん。
同じ大学の1つ上の先輩。
法学部に在籍する秀才。
私の地元の先輩で、高校生の頃は特にお世話になった。
電車で一緒になったり、勉強を教えてもらったり。
今の大学を受験することに決めたのも、柊弥さんへの憧れの気持ちも理由の1つ。
柊弥さんは、高校生の頃、湊都と付き合っていたのも知っているし、別れた時に相当落ち込んでいたことも知っている。
かなり話を聞いてもらっていたからね。
連絡はちょくちょく取っていたけれど、会うのは冬以来だ。
「茉桜、元気そうでよかった!」
「前よりは随分元気になったんですよ」
「とりあえずおいで!案内してあげる」
「ありがとうございます!」