気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
夕方。
講義と講義の間に休み時間なんてほとんどない、慌ただしい一日を終えて帰宅した。
「ただいまー」
返事はない。
「私だけか」
玄関を見回しても、靴は私のものだけ。
どうやら今日はまだ誰も帰ってきていないみたいだ。
いつも賑やかな桜ノ木ハウス。
でも今日は、少し驚くくらい静かだった。
リビングの時計が刻む音。
窓から入ってくる夕方の風。
洗いたてのブランケットから、柔軟剤の匂いがふわりと香る。
まだ引っ越して1週間なのに。
この家の匂いや音が、少しずつ好きになっている自分がいる。
「……よし!」
荷物を部屋に置いて、今日は掃除当番。
帰ってきたみんなが、「綺麗!」って言ってくれたらいいな。
私は袖をまくって、掃除機を手に取った。
しばらくして、
「ただいまー!」
と元気な声が聞こえてきた。
この声は希遥さんだ。
「おかえりなさい!」
「茉桜ちゃんただいま〜。掃除ありがと!」
「いえいえ、こんなのでいいのかなぁ」
「丁寧すぎるくらいだと思うよ?想に負けないくらい」
「想くん、掃除好きなんですか?」
「めちゃくちゃ丁寧なの。部屋も物凄い綺麗できっちりしてる」
想くんらしいなぁ。
部屋まできっちりしてるなんて。
「想くんって感じですね」
「でしょ?」
希遥さんは冷蔵庫から麦茶を取り出して、一気に飲み干す。
「真面目なんだよね、あいつ」
「そうなんですか?」
「うん。真面目すぎるくらい」
「へぇ〜」
「掃除もそうだし、時間も守るし、約束も守る」
「すごい」
「でも融通効かない」
「それはちょっと分かります」
「あはは!」
笑い合う。
想くんって、ぶっきらぼうで、ちょっと怖くて、何考えてるか分からない人。
……って思ってたけど。
そういう人なりに、ちゃんと生活して、ちゃんと周りを見てる人なのかもしれない。