気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「でもね」
希遥さんが少しだけ声を落とす。
「あいつ、自分のことは全然話さないよ」
「え?」
「私も柊弥も長い付き合いだけど、案外知らないこと多い」
そうなんだ。
なんとなく、秘密主義って感じはする。
「まあ、そのうち分かるよ」
希遥さんはにっと笑う。
「茉桜ちゃん、人懐っこいし」
「いやいや!」
「想が懐くかは分かんないけど」
「懐くって犬じゃないんだから」
そう言った瞬間。
ガチャ。
玄関が開く音が聞こえた。
「ただいま」
噂をすれば、想くんだった。
「おかえりー」
「おかえりなさい!」
そう言うと、想くんはリビングを見回して、少しだけ目を丸くした。
床。
テーブル。
ソファ。
テラスには、洗ったクッションが並んでいる。
数秒。
「……綺麗」
ぽつり。
「え?」
思わず聞き返す。
「掃除」
「あっ……!」
褒められた?
いや。
今、絶対褒められたよね?
「普通」
「どっち!?」
「普通に綺麗ってこと」
そう言って、想くんはキッチンへ向かっていった。
「……今の褒めてたよ」
希遥さんが小声で言う。
「えっ」
「想、滅多に言わないから」
私は、コーヒーを淹れ始める後ろ姿を見つめる。
やっぱり、感じ悪い。
でも、思ってたより、ずっと悪い人じゃないのかもしれない。