気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「ただいまー」
返事はない。
でも、静かなリビングから、かすかに生活音が聞こえてくる。
キーボードを打つ音。
時々、紙をめくる音。
誰かがいる。
それだけで、なんだか少し安心した。
リビングの扉をそっと開く。
そこに居たのは、想くんだった。
イヤホンをして、パソコンに向かっている。
机の上には分厚い教科書。
想くんの課題、チラッと見たことあるけど、何をしているか分からないくらい、いつも難しいことをしている。
そんなイメージがある。
邪魔をして、機嫌を損なわせないよう、そーっと階段に向かう。
「……おかえり」
え?
思わず振り返る。
想くんは、画面から目を離さないまま。
「……ただいま?」
思わず疑問形になる。
想くんはちらっとこっちを見て、
「なんで疑問形なんだよ」
って、少しだけ呆れた顔をした。
だって。
想くんがそんなこと言うなんて思わなかったから。
「聞き間違いかと思って」
「失礼」
「だって想くん、こういうこと言わなそうだし」
「言う時は言う」
それだけ言って、またパソコンに向き直る。
ちょっと驚いた。
けれど、その一言が妙に嬉しかった。
「おかえり」、たったそれだけ。