気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
知っているようで
昼休み。
講義がひとつ休講になった。
ぽっかり空いた時間。
せっかくだし学食でお昼を食べようと思って、私は1人でキャンパスの中を歩いていた。
6月も後半。
梅雨の合間の晴れた日で、空は思ったより青い。
木陰を通る風が気持ちよくて、思わず伸びをした。
奈瑠は別の講義。
今日は珍しく1人だ。
学食へ向かう途中。
中庭のベンチの近くで、見覚えのある人影が見えた。
「あ」
思わず足が止まる。
柊弥さんだった。
ゼミか何かだろうか。
数人の学生と話している。
……と思った、その時。
「柊弥先輩!」
後ろから女子学生が駆け寄ってきた。
1人じゃない。
2人。
3人。
次々と。
「この前ありがとうございました!」
「レポート助かりました!」
「先輩、今度のイベント来ますか?」
口々に話しかけられる柊弥さん。
それに対して柊弥さんは、
「はいはい、順番ね」
なんて笑いながら返している。
すごい。
思わずその場で立ち尽くしてしまった。
モテるとは聞いていた。
でも。
聞くのと見るのとでは全然違う。
桜ノ木ハウスでは、優しくて、料理が上手で。
面倒見のいいお兄ちゃんみたいな人、そんなイメージだった。
でも、今目の前にいる柊弥さんは、まるで別人みたいだ。
「人気者だ……」
思わず小さく呟く。
その瞬間。
「何してるの?」
後ろから声がした。
びくっと肩が跳ねる。
振り返ると――
そこには、アイスコーヒーを片手に持った希遥さんが立っていた。