気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「何してるの?」
「あ、希遥さん」
「こんなところでぼーっとして」
「いや、あの……」
私は中庭の方を指差した。
すると希遥さんは一瞬で状況を理解したらしい。
「あー」
そして笑った。
「あれね」
「柊弥さん、すごいですね」
「何が?」
「人気者です。高校の時もそうだったけど改めて思いました」
私は改めて中庭を見る。
相変わらず柊弥さんの周りには人がいる。
男子も、女子も。
後輩っぽい人も、同級生っぽい人も。
みんな楽しそうだ。
「すごいなぁ」
素直にそう思う。
私なんて大学でそんなに顔が広いわけじゃない。
教育学科の友達はいるし、奈瑠もいる。
それで十分楽しい。
でも。
あんな風にたくさんの人に囲まれるのは、ちょっと憧れるかもしれない。
「茉桜ちゃんは無理そうだけどね」
「なんでですか!?」
「だって人多いとすぐ疲れるじゃん」
「それは……」
否定できない。
希遥さんが笑う。
その時だった。
「あっ、希遥先輩!」
突然、後ろから声が飛んできた。
振り返る。
今度は私たちの方へ、女子学生が2人走ってきていた。
「先輩!この前ありがとうございました!」
「資料助かりました!」
「また相談してもいいですか?」
私は目をぱちぱちさせる。
すると希遥さんは、さっきまでのんびりしていたのが嘘みたいに笑顔になった。
「もちろん〜」
「分からなかったらいつでも聞いてね」
「ありがとうございます!」
後輩たちは嬉しそうに頭を下げる。
「また連絡します!」
元気よく手を振りながら走っていく後ろ姿を見送る。
すると希遥さんは小さく息を吐いた。
「元気だなぁ」
「希遥さん、すごいですね」
「何が?」
「希遥さんも人気者です」
「そんなことないよ〜」
「いや、あります」
「ないない」
そう言いながらも、少し照れたように笑う。
私は中庭にいる柊弥さんを見る。
そして目の前の希遥さんを見る。
桜ノ木ハウスでは、みんな普通にご飯を食べて、テレビを見て、プリンがなくなって、くだらないことで笑っている。
でも、大学では違う。
柊弥さんはたくさんの人に囲まれていて、希遥さんは後輩たちから頼りにされていて。
私の知らない顔を持っている。
なんだか少し不思議だった。