気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「なんだか不思議です」
私はぽつりと呟いた。
「何が?」
「家だと全然違うじゃないですか」
中庭では相変わらず柊弥さんが誰かに囲まれている。
さっきの後輩たちも、希遥さんのことをすごく頼りにしていた。
「そう?」
「そうですよ」
私は思わず笑う。
「柊弥さんなんて、この前もキッチンでエプロン姿でカレー作ってましたし」
「あはは」
「希遥さんはプリン事件起こしてましたし」
「やめて、その話まだ引きずるの?」
希遥さんが少しだけ不服そうな顔をする。
でも、私も笑ってしまう。
大学で見る2人は、なんだか少し遠い存在みたいだった。
みんなから頼られていて、みんなに慕われていて。
キラキラして見える。
でも、私が知っている2人は違う。
テレビを見ながらお菓子を食べたり。
誰がお風呂長いだの、洗濯物がどうだの言い合ったり。
プリン1つで大騒ぎしたり。
そんな姿も知っている。
「同じ家に住んでるからかな」
気付けば、そんな言葉が口から出ていた。
「ん?」
希遥さんが首を傾げる。
「大学じゃ見えないところも知ってるなって」
「あー」
希遥さんは少し考えて、それから笑った。
「確かにそうかもね」
風が吹く。
梅雨の合間の青空が、木々の隙間から見えた。
「一緒に暮らすって、意外とそういうことなのかも」
家族でもない。
昔からの友達でもない。
それでも毎日同じ家に帰る。
朝、会って。
夜、会って。
少しずつ相手のことを知っていく。
好きな食べ物とか。
苦手なこととか。
どんな時に笑うのかとか。
そういうのは、同じ大学にいるだけじゃ分からない。
「茉桜ちゃーん」
その時。
遠くから聞き覚えのある声がした。
振り返ると――。