気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「あ」
逸晟くんだった。
大きく手を振る逸晟くんは、相変わらず人混みの中でも目立つ。
その隣には、
「……」
想くん。
なんでそんな嫌そうな顔してるんだろう。
別に連れて来られたわけじゃないだろうに。
「何してるんですか?」
「講義終わったから学食行こうと思って!」
「2人で?」
「いや?」
逸晟くんが後ろを指差す。
そこには数人の男子学生。
建築学科の友達だろうか。
みんな楽しそうに話している。
「想、お前また女子に話しかけられてたじゃん」
「見た見た」
「モテ男は大変だな〜」
「そんなんじゃねえって」
想くんは露骨に嫌そうな顔をした。
「へぇ」
思わず声が漏れる。
「何」
想くんがこっちを見る。
「想くんも人気者なんだなって」
一瞬。
周りが静かになる。
「茉桜ちゃん、違う違う」
逸晟くんが笑う。
「人気はある。でも本人にその自覚がない」
「いらない。むしろうざい」
「もったいな〜」
逸晟くんが肩をすくめる。
「建築の女子とか結構想のこと好きだと思うけどな」
「やめろ」
「なんで?」
「面倒だから」
「ほらこういうところ。分かるでしょ?茉桜ちゃんなら」
「納得しました」
「するな」
想くんがため息をつく。
その様子に、みんなが笑った。
大学では人気者。
後輩にも頼られて、友達もたくさんいて。
そんな人たちなのに。
桜ノ木ハウスに帰れば、プリンで騒いだり。
洗濯ネットの使い方で怒られたり。
テレビを見ながら言い合いをしたりする。
なんだか不思議だ。
きっと大学の人たちは知らない。
柊弥さんが料理上手なことも。
希遥さんがお風呂に長いことも。
想くんが洗濯にやたら詳しいことも。
私だって、同じ家に住んでいなかったら知らなかった。
「茉桜ちゃん?」
希遥さんに呼ばれて顔を上げる。
「何考えてたの?」
私は少しだけ笑った。
「一緒に暮らすって、不思議だなって」
みんなが首を傾げる。
「大学だけじゃ知らなかったこと、いっぱい知れるじゃないですか」
好きな食べ物。
苦手なこと。
どんな時に笑うのか。
毎日同じ家に帰るからこそ見えるものがある。
「まあ、それはあるかもね」
希遥さんが頷く。
「……そうかもな」
珍しく、想くんも否定しなかった。
初めてこの家に来た時。
私は知らない人たちと暮らすことが少し怖かった。
でも今は、知らない人だったからこそ、知っていくのが楽しいと思う。
そんなことを考えながら、私は賑やかなみんなの声を聞いていた。