気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
夏の嵐
8月3日。
朝から蝉が鳴いている。
窓を開けても入ってくるのは涼しい風じゃなくて、むわっとした夏の空気。
今日も暑くなりそうだ。
「暑……」
リビングへ下りると、もう希遥さんがソファに寝転がっていた。
「無理ぃ……」
「おはようございます」
「おはよぉ……」
返事まで溶けそうだ。
テレビでは今日の最高気温が35度と伝えられている。
「35度だって」
「聞きたくない」
「まだ朝ですよ?」
「だから絶望してるの」
思わず笑ってしまう。
夏休みに入ってから、時間はゆっくり流れている。
講義に追われることもない。
試験の心配もしなくていい。
みんなそれぞれ予定はあるけれど、こうして家で顔を合わせる時間も増えた。
「茉尋は?」
「まだ寝てる」
「昨日大学、すごい楽しそうだったもんね」
「あんなに楽しそうだとは思わなかったです」
「目、ずっとキラキラしてたもん」
昨日は暑い中、希遥さんと大学の案内をした。
茉尋は“大学”というものが、見るもの全てが新鮮だったみたいで、「かっこいい」「すごい」「早く大学生になりたい」と中学生らしい感想を言っていた。
そう話していると、
「おはよう」
後ろから想くんがリビングへ入ってきた。
寝癖が少しだけ残っていて、いつもより少しだけ眠そう。
そんな珍しい姿を見ていると、
「見るな」
「何も言ってないよ」
「顔に書いてある」
「読めるの?」
「読める」
朝からいつも通り。
そんな何気ない時間が、なんだか心地よかった。
この時はまだ、今日があんなに慌ただしい1日になるなんて思ってもいなかった。