ハートのラテアートは勘違いじゃなかったらしい。



「持ち帰りで、ホットコーヒーをお願いします」

レジで注文すると、彼は少しだけ驚いた顔をした。

「ホット、……ですか?」

真夏なのに、と思ったのだろう。

小さく笑って頷くと、
彼の目元がやわらかく下がって「かしこまりました」と返した。

――それが最初のやり取り。

今ではもう、何も言わなくても通じる。

「お待たせしました。ホットコーヒーです。
熱いので、お気をつけください」

手つきも、言葉も、慣れてきたようだ。

でも、最後に向けられる笑顔だけは、いつもぎこちない。

カップを差し出されて、手を伸ばす。

その時、指先が軽く触れた。

(!)

思わず固まってしまう。

いきなり時間が止まってしまったようだ。

(どうしよう……)

「あ、あの……」

恐る恐る見上げてみると、彼は少し目を見開いていた。

「あ、すみません……どうぞ」

パッと手が離れた。いつもよりも困ったような笑顔。

改めてカップを両手で受け取ると、私は小声でお礼を言う。

意識しないふりが、うまくできなかった。

……きっと、私の笑顔もぎこちない。

(はぁ、ビックリした)

店から出ると、
淹れたてのコーヒーを一口飲んで、ふっと息を吐く。

午後も頑張ろうと思えた。

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