天才と天才

9,調理開始

澄み渡る青空の下、学校前には大型バスが停まっていた。

生徒たちの賑やかな声が飛び交う中、私は荷物を抱えて集合場所へ向かう。

「凛〜!こっちこっち!」

結愛が大きく手を振る。

その隣にはすでに新、美琴、陸、蒼真の姿もあった。

「全員ちゃんといるじゃん」

私が言うと、陸がにっと笑う。

「俺を誰だと思ってんの?こういうイベントは全力で楽しむ派」

「朝比奈くんが時間通りに来るなんて珍しいですね」

美琴の冷静な一言に、みんなが吹き出した。

バスに乗り込み、走り出すこと数時間。

窓の外には、都会の景色がいつしか深い緑へと変わっていた。

山々に囲まれた自然豊かな研修施設。

今日から二泊三日、ここで林間合宿が行われる。

この時の私は、ただ少しわくわくしていた。
山々に囲まれた自然豊かな研修施設に到着した私たちは、簡単な説明を受けたあと、それぞれ班ごとに夕食作りの準備を始めていた。

今日のメニューは、林間合宿の定番——カレー。

調理場には野菜や肉、調味料が班ごとに分けて置かれていて、どの班も楽しそうに準備を進めている。

「よーし!こういうのって燃えるよな!」

陸が腕まくりをしながら張り切る。

「包丁は任せて。撮影で料理企画よくやってるから」

結愛がにこっと笑う。

「では私は火加減を見ます」

美琴が静かにエプロンを整える。

「俺は味見係で」

蒼真がぼそっと言うと、

「ただ食べたいだけだろ」

新が冷たく突っ込んだ。

そんなやり取りに笑いながら、私は班の食材が置かれているテーブルへ向かった。

……けれど。

「あれ?」

そこにあるはずの箱が、ない。

肉も。

野菜も。

カレールーも。

何ひとつ置かれていなかった。

「え……?」

思わず声が漏れる。

結愛たちも異変に気づき、集まってきた。

「ちょっと待って、うちの食材は?」

「さっき先生が“ここにある”って言ってたよな?」

陸が辺りを見回す。

新はすっと目を細めた。

「おかしい」

美琴が眉をひそめる。

「他の班にはあるのに……」

周囲を見ると、ほかの班は普通に調理を始めている。

困っているのは、私たちだけだった。

その時。

先生が慌てて駆け寄ってきた。

「どうした?」

「先生、うちの班の食材がありません」

私が言うと、先生は目を丸くした。

「は? そんなわけ……」

確認した先生の表情が固まる。

「……本当にない」

ざわり、とその場の空気が変わった。

「誰かが持っていったってこと?」

結愛が不安そうに呟く。

「いや」

それまで黙っていた新が、足元をじっと見つめながら言った。

「これはただの持ち間違いじゃない」

「どういうこと?」

私が尋ねると、新は地面を指差した。

そこには、土の上にうっすらと残るいくつかの足跡。

そして、食材箱が置かれていた場所には——

小さな紙切れが一枚落ちていた。

陸が拾い上げる。

そこには、乱れた文字でこう書かれていた。

『材料は預かった。返してほしければ、森の奥へ来い』

「……は?」

陸が目を瞬かせる。

蒼真も珍しく眠そうな顔をやめて紙を覗き込んだ。

「なんか、めっちゃ事件っぽい」

新の目が鋭くなる。

「面白い」

その声に、私は思わず顔を見る。

普段は無表情な新が、ほんの少しだけ口元を上げていた。

「これはゲームじゃない。誰かが意図的に仕掛けたものだ」

彼は私たちを見回す。

「犯人を見つけて、材料を取り戻す」

「つまり——」

陸がにやりと笑う。

「俺たち六人で捜査開始ってわけだな!」
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