パーフェクト・ネイル ~憧れの上司に狙われている、かもしれません~
酔っ払いからは距離を置くのが賢明だ。どのみち椛は、この駅で降りる。
「おつかれさまでしたっ」
「ああ、お疲れ。また明日」
がばっと立ち上がりながら上擦った挨拶を残して、出入り口のドアまで大股で移動する。いつもとなんら変わらない遠坂の声を背中で聞きながら、飛び出るようにホームへ降りる。
タイミングよく扉が閉じて電車が発車したため、振り返って遠坂の表情を確認する暇もなかったが、それでよかったのかもしれない。
ホームに吹き抜ける生ぬるい風が静まった頃になり、ようやく盛大なため息を漏らす。心の叫びは音にならなかったが、頭の中には動揺の嵐が吹き荒んでいた。
(もおおぉっ、主任のばか……!)
いや、馬鹿は椛だ。藪をつついて蛇を出す、とはまさにこのこと。
遠坂は自分の性癖を告げるつもりなんて微塵もなかっただろうに、好奇心と探求心のままに踏み込んで、椛の方が開けなくてもいい扉を開けてしまったのだ。
(明日から、どういう顔で主任と接すれば――!?)
可能なら時を戻してほしいと思う。
だが人生は、そう簡単なものではないのだ。