パーフェクト・ネイル ~憧れの上司に狙われている、かもしれません~
 しかし含みのあるその言い方に、むしろ好奇心が疼いてしまう。踏み込ませたくないなら嘘でも『ない』と言い切ってしまえばいいのに、椛を見下ろす目尻が少しだけ下がり、逆に形のいい唇の端は少しだけ上がる笑い方に、俄然探求心が刺激される。

「そんなに際どいフェチなんですか?」
「いや、別にそこまでじゃないと思うが」

 椛のさらなる質問に、遠坂が苦く笑う。

「けど俺、これでもお前らのまとめ役なんだよ」

 遠坂の憂慮に「なるほど」と頷く。

 現代日本において『性癖』や『フェチズム』といったセクシャリティに関する話題は、容易にハラスメント問題へ発展しうる。セクシャルハラスメントの範疇には身体的な接触だけではなく、不快な発言も含まれるため、自身の性癖やフェチズムの開示も時と場合によっては不適切とみなされかねない。

 そういう意味では和泉の性癖暴露もどうかと思うが、チームをまとめる『主任』の役目を与えられている遠坂の場合、その重さはひとしおだ。ゆえに慎重になっているのだろう。

 とはいえ、ハラスメントは『相手に不快感を抱かせた場合』に限定されるものだ。

「私は気にしないですよ」
「初野がしなくても、俺がするんだよ」
「誰にも言いませんけど」
「なんだ、随分ぐいぐい来るな」
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