パーフェクト・ネイル ~憧れの上司に狙われている、かもしれません~
あまりにシンプルすぎると自覚した瞬間、思わずぎゅっと手を握って、爪の先を隠してしまう。
椛自身はどんな服装にも合わせやすくて気に入っているが、爪フェチだという遠坂のお眼鏡にかなうような素晴らしいデザインだとは到底思えない。そう気がつくと、急に恥ずかしくなったのだ。
わずかな挙動に気づいたのか、遠坂が少しだけ身を屈めて椛の顔を覗き込んでくる。
「初野の爪は、俺好みだぞ」
「いいですよ、そんな取ってつけたように褒めなくても」
「本当だって」
隠したくなった本心を読まれて、その上で慰められたように感じたので、思わず可愛げのない返答をしてしまう。だが遠坂はそっぽを向く椛にくすくすと笑うのみで、椛の反応をさほど気にする様子はなかった。
「でも、なるほど……女性のネイルを見て、そんなことを考えてるんですね」
椛の確認に遠坂が低く頷く。しかしそれ以上は話題が広がらず、すぐに沈黙が降りる。聞こえるのは、走行に合わせて電車が揺れる音だけだ。
これ以上深掘りすることもないか……と考えてため息をついていると、ふいに遠坂の手が伸びてきて、椛の肩に回った。
急に触れられたことに驚いて、はっと顔を上げる。しかし遠坂は椛の反応を一切気にせず、さらに肩を抱き寄せるようぐいっと力を入れてくる。
瞠目する椛の耳元で、遠坂が「それから」と呟いた。