パーフェクト・ネイル ~憧れの上司に狙われている、かもしれません~

「この爪なら、背中に立てられても痛くなさそうだな――とか」
「!?」

 低く掠れた声が耳朶を撫でた瞬間、背中がぞくっ……と強く震える。身体の芯がびりりと痺れる感覚と同時に、全身がびくんと激しく反応する。

 するとその姿を目にした遠坂が、至近距離でにやりと微笑んだ。

「な、な……っ!? なに考えてるんですかっっ」
「なにって、そりゃもちろん――」
「待って、言わなくていいです!」

 開きかけた遠坂の口を慌てて押さえる。

 普段は直接触れることのない、それどころかこれほど近づくことさえない上司の顔を、手で思いきり押さえつけるのはどうかと思う。だがこのまま彼に喋らせるのはあまりにも危険な予感がした。

 先ほどハラスメントになる可能性を気にしていたのはなんだったのか。直接的な表現こそ使っていないが、明らかに男女の、というより遠坂の夜の姿を想像させるような言い方をされると、椛の方が焦ってしまう。

 たしかに椛は、密かに憧れている遠坂の性癖や好みが気になった。知ったからといって彼とどうこうなるわけではないが、帰りの方向が一緒なのを良いことに、誰にでも気さくで仕事ができる遠坂のプライベートな姿を、少しだけ知りたい、と思った。
 だが、それだけなのだ。
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