『お姉ちゃんだから』と我慢し続けてきた令嬢、ついにブチ切れる【完結まで毎日更新!】



 朝の日課を終えて執務室へ向かう途中、ようやくお目覚めの義妹、フルールとすれ違った。

 その手には、魔法で無理やり開花させた季節外れの薔薇が握られている。

 父の持つ水魔法と、魔力を持たない継母の血がどう作用したのか、彼女には植物を操る『緑魔法』の片鱗が顕現し始めていた。
 ただしその力はひどく脆弱で、根から切り離された花は、彼女の拙い魔力供給が途絶えれば一晩と持たずに枯れ果てる運命だ。

「お姉ちゃん、またそんなボロボロな格好をして……ねえ、私がお洒落を教えてあげようか?」

 フルールが、薔薇をくるくると指先で遊ばせながら、あどけない同情と隠し切れない蔑みを()い交ぜにした目で私を見上げてくる。

「……いいのよ、フルール。私はこれで満足しているから」

「そんな……! お姉ちゃんはいつもお仕事ばっかり!女の子としてもっと着飾らないと!」

 生まれた時からこの歪な環境で育ち、まともな教育も受けていない彼女は、私が好き好んで労働に明け暮れているのだと本気で思い込んでいる。

 七歳になり、知恵がついてきた最近の彼女は、人前で「姉を憐れむ健気な妹」を演じる術を覚えた。
 そうすることで、使用人たちから「おいたわしいソフィー様を気遣う優しい天使」と称賛されることを、幼いながらに計算して実行しているのだ。

 裏では私を召使のように扱う暴君ぶりは継母の写し鏡だが、全方位にいい顔をしようとする立ち回りは、父の狡猾な日和見主義を受け継いでいるのかもしれない。


 下手に断れば彼女は癇癪を起し、魔法で庭の雑草を増殖させて私の仕事を増やす。
 だから私は、彼女が望む正解の反応を返すよう、細心の注意を払うようにしていた。

「ありがとう、フルール。あなたは本当に優しいわね」

「ええ、そうでしょう! だからお姉ちゃん、今夜のデザートは甘いイチゴを用意してね。約束よ? あとこのお花、ちゃんと素敵な花瓶に飾っておいてね!」

 当然の権利として追加の労働を課し、満足げに鼻歌を歌いながら去っていく小さな背中。

 彼女にとって、私は「救うべき可哀想な存在」であると同時に、自分の我儘を叶えて当然の「便利な道具」なのだ。

 手渡された薔薇の茎が、棘で私の指をかすかに傷つけた。
 彼女はその痛みすら、私の日常の一部として気にも留めていないようだった。


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